しばらくして、着替えを持ったすずが戻ってきた。
「おおう。ちょうど風呂沸いたから」
「ありがと~、じゃぁ紫ちゃん行こっか?!」
そう言ってすずは紫を連れて風呂場に向かった。
「風呂場で転ばないようにな」
俺は風呂場に向かう二人に皮肉を言った。
そういえばすずってうちの風呂入れたっけ?
…まぁどこの家庭のも大して変わらんだろうな。
きっと大丈夫だろう。
俺は居間でゲームをしながら適当に二人を待つことにした。
最近購入したファミコンの互換機を用意し、画面に向かうこととした。
今改めてプレイすると、昔のゲームのほうがずっと難しい。
コントローラの反応速度、敵弾の当たり判定といい、最近のものに比べてずっとシビアだ。
あの○ゴヤ撃ちのゲームに至っては3面まで行くのが限界だ。
俺の腕が落ちてるというのも否定できないが。
「ちょ、1段降りてくるのこんなに早かったっけ?!」
俺は自分以外誰もいない部屋で思わず叫んだ。
途中に出現するUFOを撃ち落とす余裕なんて微塵もない。
敵の動く速度自体はそれほど早くないが、一定のタイミングで動いているのでそれがズレるとまったく当たらん。
自分の撃つタイミングと敵の動きを同調させることが連続撃破のコツのようだ。
そもそも何で自機が画面の端までいけないんだ?
不利すぎる。そしてブロックが邪魔すぎる。
防御する必要などない。すべて避けきればいいのだ。
単調な動きの異星人に苦戦していると、風呂場の戸が開けられる音がした。
結構な時間没頭していたようだ。
しかし女が風呂に入ってる間中プレイしてても3面より先に進めないとは…。
これは練習する必要があるな。
ガチャッ
今度は居間のドアが開けられる音がした。
「上がったよー」
風呂から上がった二人が戻ってきた。
すずの声に俺は振り返ると、湯上りの上気した女が2人立っていた。
…いや、女はいないか。女の子2人の間違いだ。
ちゃんと入れたようだな…俺は少しだけ安心した。
紫が着ている子供用のパジャマ…ありゃ昔すずが着てたやつだな。
これはまた懐かしいものを引っ張り出してきたもんだ。
つーかよく取っておいたな。
俺はもう子供の頃着てた服なんてほとんど残っちゃいないぞ。
しかしまぁ…昔の人でも着れることは着れるんだな。
変に似合ってないわけでもない。
…子供用ってのもあるが。
「そろそろ俺も入るか…」
俺はゲーム疲れした重い腰を上げた。
風呂が冷める前に入らないともったいない。
追い炊き機能がついてると楽なのだが。
「じゃぁ衛慈が上がってくるまであたしはいたほうがいいよね?」
風呂場へ向かう俺にすずが尋ねてきた。
さてどうしたものか。
俺が風呂に入ってる間、紫が何を起こすか想像できん。
そんな憂慮をし、居間の床に座る紫に目を向けると…
その長い黒髪を纏った小さな頭を縦に揺らしていた。
時計を見るともう夜の10時を指している。
お子様はご就寝の時間かもしれない。
「おい…寝るんならちゃんとしたとこで寝ろって。風邪引くぞ」
俺は半分夢の中にいる紫に声をかけた。
「ふぁあ…眠くなんか…ない…」
まったくもって説得力のない言葉だ。
瞼なんてほとんど開いてない。
「しょうがねぇな…空いてる部屋に連れてくか」
俺は可愛らしいパジャマ姿の女の子を抱き上げ、今は使っていない部屋に向かった。
いや、もう…使われなくなってしまった部屋、か。
俺はその部屋に入り、久しく誰も横になっていなかったベッドに紫を寝せた。
紫は布団の中で静かに寝息を立てている。
まぁ、疲れただろうな。
こんなことがあって疲れない人間が存在するだろうか。
「…おやすみ」
聞こえない程の小さな声で呟き、俺はその部屋を出た。
ドアの外にもたれかかり、手で額を押さえた。
「ふぅっ…」
今日、もとい最近で最も深いため息をついた。
これほどまでに疲労感たっぷりのは久しぶりだ。
いや、それだけのせいではないのかもしれない。
少しだけ…思い出してしまった。
「衛慈…だ、大丈夫?」
心配したのか、すずが駆けつけてきた。
「あぁ…ちょっと疲れただけだから…気にすんな」
今日はいつになくすずに頼ってばかりだ。
これ以上すずに心配をさせたくない。
「今日はありがとな…いろいろ助かった」
「ううん、あたしは全然気にしてないから。それに楽しかったし」
やはり気を利かせてくれてるようだ。
「じゃ、じゃぁ今日はもう遅いから…あたし帰るね?」
「あぁ、また明日な」
あー、明日も学校あるのか…。
せめて今日が週末だったらよかった…。
「じゃぁおやすみね☆」
「おやすみ…湯冷めして風邪引くなよ」
すずを玄関で見送り、俺は着替えを取りに部屋に向かった。
そのまま寝てしまったことに気付かせてくれたのは朝焼けだった。
第6筆 終
続きます。